房総球奏考

野球応援だったり観戦日記だったり

慶應義塾にしか作れないアルプススタンド

2018年8月12日の甲子園球場慶應義塾高知商業


慶應義塾のアルプスでの応援の様子を見て


「これはどこも敵わないな...」


と思った。


そもそも今年の夏は甲子園に行くつもりなどなかったのだが、慶應義塾が甲子園出場を決めたとき、10年前のあのアルプスの応援を思い出し、これは行かなきゃいけない!と思い立った。


慶応のエンジョイベースボールも大好きなのだが、今回は完全に「慶応の応援」が唯一最大の目的として、聖地入り。


実際に肌で感じた慶応アルプスの魅力を、あくまで自分目線でいくつか挙げてみる。


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カッコイイ!塾高オリジナル「烈火」


慶応の応援レパートリーは、基本的に大学と同じだが、その中にあって大学では使われない、塾高オリジナルの「烈火」が輝きを放つ。


シリウス」や「アラビアンコネクション」など、現在の慶応の代表曲をいくつも作曲した中谷寛也さんが、2008年の塾高選抜大会出場の際、応援指導部から作曲を依頼されたという。


メロディの勇ましさはもちろん、後半コール部分や振り付けのシンプルさもスタンドを一体にさせる要素として働いている。


何度聞いてもカッコイイ!!


www.hochi.co.jp




慶應義塾 烈火 2018/08/12 高知商業戦


チャンスパターンの確立


現在の高校野球応援は、選曲から応援構成など、その方法は多種多様で、「~が使っていてかっこよかったから」という理由で自分の応援曲にしたり、流行曲を取り入れたり、SNSの普及からか、学校単位でもその応援の仕方は変化し続けている。


昨今、応援曲数を増やしたり、新曲を次から次に取り入れたりする学校があるが、実のところ、吹奏楽部の負担が大きい割に応援としての効果はマイナスになりかねない。


応援とはグラウンドの選手たちを勇気づけるものであると同時に、応援席も一体化させなければならないのに、わからない曲をやり続けることはスタンドを空中分解させてしまう恐れもある。


その中で、自校の応援パターンを確立している伝統校も多い。


今大会でいえば、1イニング継続制+チャンス曲という組み合わせでいうと、「ジョックロック」の智弁和歌山、「怪しい曲」の平安、今春そのスタートラインに立った近江などがまず挙げられる。


また、ランナーが出ればチャンスの「第五応援歌」に切り替えるチャンスパターン系の横浜高校も伝統を感じる。


同じくチャンスパターン系の慶応は、東京六大学系とも言える。


「タイタン」(これも中谷氏の作曲)から始まり、学注を挟んで「シリウス」+「アニマル」「疾風」「パトリオット」「烈火」「ソレイユ」の組み合わせ。


ランナーが進めば、「アラビアン」か「スパニッシュ」でつなぎ、「突撃のテーマ」「ダッシュ慶應」、得点が入れば「若き血」でフィニッシュという塾生や塾ファンが慣れ親しんだその応援パターンを持っているのは、アルプスを一体化させる要素としてとてつもなく大きい。


早稲田実業も同様だが、東京六大学の系列校や付属校ともなれば、積み上げられた応援の伝統が今の応援席を作り上げているのだと感じる。


しかし、ただ古い曲をやっているというわけではない。


慶大応援指導部の現役生が応援曲を作曲するという伝統は今でも続き、「疾風」は2006年に、「ソレイユ」は2013年に当時の塾生が作曲し、応援レパートリーに取り入れられ、「烈火」も2008年から使用という比較的新しい曲である。


1927年に「若き血」が生まれてから一世紀近く経つ今でも、応援レパートリーについて議論されている。


新旧の融合が見られるところも慶応の応援の魅力である。


慶應義塾」というブランド 「若き血」「塾歌」の存在


どんなにカッコイイオリジナル曲を持とうが、どんなに卓越した演奏力のある吹奏楽部がいようが、どんなに生徒を動員しようが、慶應義塾というブランドには勝てない。


自分が見たあのアルプススタンドの光景は、おそらく慶應義塾という学校以外には見られないだろうと思った。


それは積み上げられてきたものの厚みが違うから。


1927に作られた「若き血」、1940年に作られた「塾歌」の誕生は、早慶戦敗戦の悔しさの上に成り立っている。


k-o-m.jp



1903年に始まった早慶戦から、学生スポーツ応援とは何か、を試行錯誤し続けできあがった今の形は、野球応援の模範と言えるのではないだろうか。



慶應義塾 塾歌 2018/08/12高知商業戦試合前


神宮やハマスタでは見られない 甲子園だからこそ


確立したチャンスパターンや、掛け声との相性がよい豊富なオリジナル曲、簡易的な振り付け、応援指導部の力など、慶応の応援を成り立たせる要素は数知れないが、それも甲子園だからこそ、すべてが集約される。


この日は、アルプススタンドだけではなく、一塁側内野席から中央特別席まで、慶応関係者とみられる人々の姿があった。


その中で、「久しぶり」という会話が至るところで聞こえてきた。


世間からも注目される甲子園は、母校や付属校が出場となれば、そこは同窓会の場ともなる。


甲子園をきっかけとして、仲間との再会もそこそこに、試合が始まれば今度は仲間とともに応援。


応援したい人が何千という単位で集まるのだから、それだけ声援も大きくなる。


これも卒業生の力が強い慶応ならではとも言える。


こういった光景は、春秋の東京六大学リーグや神奈川大会の横浜スタジアムでは見られない。


甲子園は"特別な大会"だからだ。


高知商業戦の9回のアルプススタンドの光景は、慶應義塾というブランドやこれまでの応援指導部の歴史などがすべて重なり合った結晶なのだと思う。


これからもますます伝統を積み上げていくのだろう。


あの揺れるアルプスの光景をまたいつか見てみたい。



2018夏甲子園 慶應9回裏 最後の若き血 ダッシュ慶應